大判例

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東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)96号 判決

一、溶液に加える塩形成酸を〇・九当量以下に限定した構成について

成立に争いのない甲第二号証(本願特許願書、明細書)、第三号証(手続補正書)を総合すると、つぎのように認められる。

本願明細書における発明の詳細な説明には「本発明は実質的純粋形でα―メチル・ドーパの光学的異性体を得る新規方法に関する。」「本発明の極めて重要な利益は、断続式または連続式の何れでも、特に連続方法では収取される左右像の純度である。」と記載されているところからみて、本願各発明が不純化防止(異体の晶化を抑えること)を意図していることは否定することができない。

ところで、その方法に関してあげる酸の添加の数値的因果関係を示す記載をみると、前記詳細な説明には「溶解する使用酸を…………九〇%以下の割合に保持し、塩形成酸のアミン塩として存在せしめ残部は遊離フエニルアラニン塩基として存在することが要点である。」とあつて、塩形成酸を〇・九当量以下に限定した構成が遊離フエニルアラニン塩基を存在させることが明かである。さらに「かくてそこには多少(一〇%以上)の遊離塩基が存在するを要する。目的の左右像は他の左右像で未だ過飽和なる母液を残し遊離塩基として結晶する。何れか一回の晶出で希望左右像の最大収得は遊離塩基として存在する量である。アミン塩としてアミノ酸が九〇%以上では収得量は少ない。」と記載されているところから、遊離フエニルアラニン塩基の存在は、目的左右像の晶出と最大収得量を得るように作用するものと認められる。

なお酸の添加それ自体の意義については、本願明細書では「塩形成酸の作用はアミノ基を中和し……酸性塩を形成するにある。」「これらの遊離カルボキシ形はフエニルアラニン化合物を溶解するに極めてよく用いられるアミノ基を中和するため他の酸性水素イオンを必要とする。」とあるだけで、酸の添加の数値的限定が不純化防止にどのような影響を与えるかといつた具体的な因果関係を示す記載は見当らない。

ところで弁論の全趣旨によれば、本願各発明における酸の添加そのものは技術常識として溶解度の増加に寄与しているものとみられるが、遊離フエニルアラニン塩基を存在させる理由としては、この方がアミン塩の形のものより溶解度が小さく、したがつて晶出し易いということは考えられるものの、これによつて目的左右像がより良く選択的に晶出するという根拠も認められないので、そのこと自体不純化防止に大きな影響を与えるということはできない。そうすると、本願各発明で酸の添加量を特定した大きな意義は、具体的には溶液中の晶出させる左右像を晶出し易い状態の遊離塩基として残し、収得量を大きくするところにあるとみなければならない。

さらに甲第二・三号証により、本願各発明では具体的には何により不純化防止をはかつているかを検討してみると、明細書の記載からみれば、主として適度の過飽和度の維持によるものとみられるのであつて、過飽和溶液の形成は、冷却・濃縮・部分中和などの手段によることが認められる。そして時間・温度・攪拌操作が本願発明において不純化防止の一つの条件になつていることは当事者間に争いのないところである。また本願明細書に酸添加の数値的限定と不純化防止との具体的な因果関係の指摘がない点は前述したとおりである。

そうしてみると、本願各発明における製品の不純化防止は、添加量は限定しているものの、数値的限定それ自体の要件によつてではなく、酸の添加という、より広い技術の範囲内ではかつているものとするほかはない。

ところで第二引用例においても本願各発明と同じく不純化防止が問題となつていること、また一般的な条件として時間・温度・攪拌操作が不純化防止の一つの条件になつている点で共通していることは当事者間に争いのないところである。そして成立に争いのない甲第五号証(第二引用例)および弁論の全趣旨によれば、第二引用例も溶解度の増加に寄与する酸の添加のもとで、冷却・濃縮・部分中和などの手段により過飽和溶液の形成をはかり、適度な過飽和度の維持により不純化防止をはかつていることが認められる。

したがつて製品の不純化防止の点に本願各発明と第二引用例との間に本質的なへだたりがあるものとはなしがたく、この点に対する判断の表現において審決に意をつくさないところがあるとしても、酸添加量の数値的限定について、その本質的な意義・目的をみすごしたということはできない。

二、作用効果について

甲第二号証、甲第五号証および弁論の全趣旨を総合すると、つぎのように認められる。

本願各発明は周知の接種法として当事者間に争いのない光学分割方法として、第二引用例と同じく「ラセメートの過飽和溶液を形成し、過飽和溶液に一方の左右像結晶を接触させることによりそれと同種の左右像を晶出させ、また他方の左右像結晶を接触させることによりこれと同じ左右像を晶出させる」手段を採用しているものであつて、その技術手段の範囲内において不純化防止の効果を達成しており、純度九七%以上という製品の純度を示している。

これに対して第二引用例(甲第五号証)では同じく分割の結果に関し、発明の詳細な説明に「殆んど純粋な活性グルタミン酸またはその塩類が得られる。」と記載され、さらに実施例一にはL形グルタミン酸結晶の比旋光度〔α〕Dが+31.6°であることが示されている。ところで成立に争いのない甲第八号証の一・二・三・四(昭和四〇年一二月一日財団法人野口研究所発行「野口研究所時報第一三号」所載、野依源太郎・渡辺テイ子著「ラセミグルタミン酸の光学分割」)によると、第二引用例の方法による光学分割の追試の結果としてL形グルタミン酸結晶の比旋光度〔α〕<省略>が+31.6°である数値が示され、これとの関連において他の方法による光学分割の結果としてL形グルタミン酸結晶の比旋光度〔α〕〕<省略>が+31.6°(光学純度九五・五%)として示されている。これを参照すると、さきにあげた第二引用例の実施例一の光学純度は約九七%と推定される。

してみると本願各発明における不純化防止の程度は、同手段によるラセミグルタミン酸の光学分割方法としての第二引用例に比して格別の差異を有するとはいえないから、作用効果が顕著なものとは認められず、したがつて審決が本願発明の作用効果の顕著を看過したものとはいえない。

三、結論

そうすると、本件審決には原告の主張するような判断の誤りはないから、本訴請求は失当として棄却せざるを得ない。

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